2012年1月10日火曜日

オウム・平田容疑者と台湾人留学生殺害事件張容疑者の事例に見る、ビッグデータ時代のアナリティクス

新年早々、世間を驚かせたオウム真理教の元幹部・平田信容疑者の逮捕。そして日本の安全神話の陰りともいえそうな、台湾人留学生殺害事件の張志揚容疑者の自殺。ようやくおとそ気分が抜けてくるという時期に、2012年の記憶として刻まれそうなニュースがすでに飛び込んできています。しかもこのニュース、社会的な問題はもちろんのこと(どちらも警察の不手際も追求されそうですからね)、ITとくにビッグデータという観点からも注目すべきニュースなのです。

警察博物館のピーポくん / TagPhotoLog


まず、オウム真理教元幹部の平田容疑者。こちらは操作で監視カメラの映像を利用して、大坂での足取りが操作されています。テレビでも監視カメラの映像が放送されています。その画像見て、やたら鮮明だとは思いませんでしたか?しかも大量の監視カメラの映像から、一週間程度で「恵比寿駅にいた」、「新大阪駅にいた」、「移動中はマスクをしていた」、などの情報が判明しています。これはスマートフォンもまだまだこれからという、5年前・2007年ごろを振り返ると、このスピード感には驚かざるを得ません。

次に台湾人留学生殺害事件の張志揚容疑者。彼はSKEのファンであることが判明し、携帯電話の愛知県内で確認されたことから、名古屋エリアで重点的に警察の捜査が行われて任意同行にいたりました。事件が発覚したのが1月5日。それからわずか4日で、SKEのファンであり、名古屋にいることを割り出してしまったのです。日本の警察の捜査力が高いとは言っても、これもまた驚きのスピードではないでしょうか。

ではなぜ、これだけのスピードが可能となったのか。それはビッグデータのトレンドで注目を集めている、“アナリティクス”によるものです。要するに、膨大な情報を、高速に分析・解析することが可能になっているのです。ちなみにこれらのアナリティクスを支えている中心的な技術は、”クラウド”や”IOT(もののインターネット)“といったキーワードであらわされるものたちです。

平田容疑者の逮捕では映像解析の技術が利用されていることは間違いありません。もはや一つ一つの監視カメラ映像を操作室にこもって捜査員がチェックする、などということはほとんど行っていないでしょう。せいぜい、最終チェックレベルです。平田容疑者の供述から、写っている可能性のある監視カメラの映像を一気に解析ソフトにかけ、そこから平田容疑者の顔が映っているものを自動的に選別しているのです。また、映像に写っている時間・場所の関係性から、平田容疑者の足跡も分析しているのでしょう。ちなみにこの映像解析の技術、一度オートノミー社でデモを見せていただきましたが非常に高精度。人ごみの中から特定の人物を見つけ出すことや、怪しい動きをしている人物を自動的にチェックすることなどは簡単にやってくれていました。

張志揚容疑者については、ライフログ=一人ひとりの行動記録の分析が活用されたと考えられます。SKEのファンであることは聞き込み調査でもすぐに判明しますが、聞き込みでなくてもSNSやメールを解析することでもすぐにその情報はつかむことができます。しかし、それ以上に注目すべきは、容疑者の携帯電話の電波がどこにあるのかが追跡されていたこと。すでに日本国内だけで1億2千万台超(2011年11月現在)も利用されている携帯電話から、特定の人物の携帯電話についてだけ、“いつ”・”どこにいるか”といった情報も含めて追うことができているのです。さらに過去の行動履歴を分析しているとすれば、もしかしたらSKEの拠点スタジオに出入りしている事実を把握し、その可能性が高いという分析結果に警察は行き着いていたのかもしれません。単に張容疑者位置情報機能をONにしていただけ、というのであればそれまでですが。

ちなみにこれらの技術は警察の捜査だけでなく、多方面で活用できます。例えばマーケティング分析。消費者一人ひとりの行動は今まで分析することは難しかったわけですが、こうした技術をつかえば可能になります。そして、一人ひとりに適合したサービスを提供することも可能になります。また、映像解析についてはそれだけで調査サービスで活用できる可能性があります。たまに見かける街中の交通量調査、今は人がカウンターをもって行っていますが、近い将来カメラを設置すればコンピュータがあとは処理してくれる、なんていうことになるかもしれません。

ただし、これらの技術はプライバシーや個人情報保護の問題が絡んできます。今回は警察捜査という状況であったため利用できましたが、商用利用に向けては越えなければいけない課題が非常に多いのが実情なわけです。