2012年3月2日金曜日

【ネタバレBookReview】ユーザエクスペリエンスのためのストーリーテリング -よりよいデザインを生み出すストーリーの作り方と伝え方 -

Whitney Quesenbery
丸善出版
発売日:2011-12-26
この本の内容にふれるには、すこしマーケティングについての整理が必要です。なぜなら、マーケティングの観点からとても価値のある内容だからです。コトラーがマーケティング3.0を提唱し、ダニエル・ピンクがモチベーション3.0を謳うようになり、マーケティングの考え方は大きく変わってきています。“ソーシャル”というキーワードもありますが、これもまた手段。相互に情報交換し、一人ひとりが情報発信できるという環境が利用可能になったということでしかありません。

では、マーケティングはどうかわったのか。かつては作り手が作れるモノを提供し、大量生産・大量消費を前提とするプロダクトアウト、つまりモノ主体のマーケティングが主流でした。高度経済成長期はまさにプロダクトアウトを象徴する時代でしょう。これがマーケティング1.0です。

しかし、徐々に私たちの生活水準が上がり、十分にモノが手に入るようになると変化が訪れます。ニーズが多様化し、大量生産・大量消費を前提とするプロダクトアウトのマーケティングに不満を抱くようになったのです。多様化するニーズにこたえるモノ+サービスを提供することが求められるようになり、環境分析からニーズを探って提供すべきモノとサービスを決めるマーケット・インに主流が移ってきました。マーケティング2.0です。バブル期以降、とくにインターネットが登場してからは非常にマーケット・インの傾向は高くなっています(マイケル・ポーターの競争戦略の影響ももちろんありますが)。

そして現在、モノ+サービスを提供するだけでもユーザの満足を手に入れることは難しくなっています。ユーザが必要とするモノではなく、ユーザがやりたいこと・成し遂げたいことに貢献することが求められているからです。そしてユーザに愛される存在になること、必要不可欠なポジションを築かなければいけません。つまり、コトを主体とする顧客本位のマーケティング=マーケティング3.0が求められるようになっているのです。

このマーケティング3.0をカタチにしていくためには顧客のことを深く理解する必要があります。そのためには、顧客が商品やサービスを通じてどのような体験をするのか、どのような体験を求めているかを把握しなければいけません。つまり、ユーザ・エクスペリエンスが必要になっているのです。そしてユーザ・エクスペリエンスを語るにはストーリーが必要です。一人の人間の時間・感覚を断片的に切り取っても意味がなく、社会生活の中での連続した関係性=ストーリーがなければ、どのようなユーザ・エクスペリエンスを得られるかを把握することは困難です。そのために手法が、この本には非常に高度にまとめられています。ユーザ・エクスペリエンスを考えるのであれば、マーケッターもエンジニアも経営者もデザイナーも、バイブルとして持っていていい本ではなないでしょうか。

以下、要点と解釈の整理です。

  前提としての理解
ストーリーの定義 : 
ユーザ・エクスペリエンスを考えるための手段。
ユーザの抱えるコンテクスト(背景、状況)や問題点を明らかにするために利用できる。
そしてこのストーリーは、全てのユーザ・エクスペリエンスに応用できる。
(つまり、あらゆる商品やサービスの開発に利用できる)

ストーリーの効果 :
関係者の共通理解とすることで、ユーザ・エクスペリエンスやそこから生まれる商品・サービスについて深く議論することができる。
その結果、新しいアイディアを呼び起こしたり、理解を共有することに大きく貢献する。

ストーリーの倫理 :
ストーリーを作るために必要なことは、リアリーリスニング、つまり傾聴。
コミュニケーションの基本である「聞く」ことが基本であり、常に全てがそこから始まる。
そしてストーリーを語るための情報源に責任を持ち、信憑性をもたせ、正確に伝えることが不可欠。
このとき、ストーリーの起点と終点は明確にし、相手の理解を助けることを心がける。


  基本的な流れ
≪集める≫ : ストーリーを作るために必要な情報を集める
聞く : 私たちの周りに常にストーリーはあるので、まずはしっかりと傾聴する
集める : ストーリーは一つではないので、効果的なリサーチを重ねる
選択する : ストーリーを分析し、重要な要素を抜き出して整理する

≪作る≫ ; ストーリーを構成する
構成する : 選択したストーリーを推敲し、目的に合わせて改善する
組み合わせる : 構成したストーリーにコンテキストを加え、ストーリーを太くする
構造とプロットを作る : フレームワークを使ってストーリーを完成させる

≪使う≫ : 作ったストーリーを利用する
アイディアを生み出す : 新たなストーリーを生み出し、商品やサービスに転換していく(デザインし、作る)
評価する : 商品やサービスがストーリーに合致するかを検証する

≪共有する≫ : ストーリーを世の中に広げていく(商品・サービスの提供)
準備する : 共有するための準備(文書、プレゼン、映像など)を用意する
共有する : ストーリーを実際に関係者やユーザに共有する(商品やサービスを提供する)
確認する : 共有された側の理解を確認し、フィードバックを得る

そして、共有の結果からえたフィードバックをもとに再び≪作る≫プロエスに戻り、継続的に改善する。


  コンテクストの要素は影響が大きい
コンテクストは以下の5つの要素。
物理的要素 : 時間や場所、大きさなど
情緒的要素 : ユーザが感じる感情
知覚的要素 : ユーザが五感で感じているもの
歴史的要素 : その出来事や場所の背景にある歴史・経緯
記憶の要素 : ユーザが体験してきたこと、過去の出来事

また、このコンテキストは以下の要素と組み合わせて、ストーリーを太くすることが必要となる。
視点 : ストーリーを語るときの視点
キャラクター : 想定するユーザ像(ペルソナ)
イメージ : ストーリーが作り出す情景