2012年6月5日火曜日

スマートシティのキーワード、“豊かさ”とは何か ⇒ その本質は社会に選択肢があり、そして選べること

スマートシティのはなしをしていると、”豊かな”社会作り、という言葉が良く出てきます。ではこの”豊か”とはいったい何なのでしょうか。少し考察をしてみたいと思います。

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  変わってきた“豊かさ”の考え方 ⇒ 物質的な豊かさから精神的な豊かさへ
豊かさ、というキーワード。実はこのキーワードに対して何をイメージするかは世代によって変わってきます。正確な統計を取っているわけではありませんが、過去“豊かさとは何か”、というテーマで何度かワールド・カフェ形式で議論を行いました。その結果、ある程度の傾向が見えてきています。

まず、バブル期ぐらいまでに社会人になっている世代、1990年代までに社会人になっている世代は物質的な充足があることを“豊か”と感じる傾向があります。これに対し、バブル期以降、いわゆる2000年代前半の就職氷河期までに社会人になった世代は自らの社会的地位やアイデンティティが築かれることに“豊かさ”を感じる傾向があります。そしてさらにもう少下の世代、2000年代後半以降に社会人担った世代は他社とのつながり、交友関係があることに“豊かさ”を感じる傾向がありました。マーケティングの教科書に良く書いてある“物質的な豊かさから精神的な豊かさへ”、という変化は確実に起きているようです。


  そもそも豊かさとは何か ⇒ 自分の想いで、やりたいことを選べること
では、そもそも豊かさとは何でしょうか。世代ごとに考え方が違うとしても、その根源は同じであるはずです。つまり、物質的な充足、アイデンティティの確立、つながり、というキーワードに共通する要素を見つけ出すことが必要になります。そこで一つ考えられるのが“選択肢”です。

物質的に充足しているということは、使えるものが選べるということです。つまり、モノに対する選択肢が多いということになります。次にアイデンティティ。これは社会の中で自分の地位が確立されているということにあり、自分が起こせるアクションの幅がひろがっているということでもあります。つまり、行動に対する選択肢が多く存在するわけです。そして、つながり。多くの人とつながっているということは、多くの人に会えるということ。そして話を聴くことができ、話を聴いてもらうことができます。遊ぶこと、仕事をするときに選べる相手が多いわけです。つまり、人の選択肢が多いということになるのです。

また、豊かな暮らしをしている人、というものをイメージしたとき、そのイメージは必ずしもお金持ちというわけでもありません。例えば、あえて少し街から離れた緑溢れる山間部で、自給自足だけれども何不自由なく暮らしている人がいるとします。年収は200万円程度かもしれません。車も軽トラックがあるだけ。ですが、家族と毎日楽しく過ごしており、生活の不安もないのです。そのよな生活を選んだ人を“豊かではない”とはいえないのではないでしょうか。逆に年収は3000万円あり、高級車を持っていて、都内の一等地のマンションに住む人がいたとします。高収入であっても会社組織に束縛され、一日中仕事に追われる生活。家族とも話す時間もなく、友だちと笑いながら話す、なんていうこともほとんどできない生活は“豊か”だといえるでしょうか。

つまり、自分自身で自分のやりたいことをやれるように、自分の行動を選べるということ、それが豊かさなのではないでしょうか。そのための選択肢があり、選択ができる環境がそろっている社会、それこそが豊かな社会だと考えています。


  豊かさのために必要なこと ⇒ 形式知と暗黙知双方の学び
では、豊かさを得るために必要なこととは何でしょうか。言い換えれば、選択肢を得るためにはどうしたらよいのでしょうか。

選択肢とは知識です。知っていれば選択肢を増やすことができます。これを組織や社会といった側面から見れば、知識創造が必要ということになります。組織や社会が知識創造を行う、つまりイノベーションを行っていけば、新しい環境が出来上がっていきます。商品やサービスにも多様性が生まれ、その提供コストも下げていくことができます。

個人のレベルであれば、学ぶということになります。選択肢として何が存在し得るのか、それを与えられるまで待ってては見える範囲も限られます。自ら動き、知識を得ていくことが必要なのです。ことの期重要なことは、”自分は全て知っている”という慢心を捨てることです。年齢を重ねるにつれて経験を増やし、知識も増え、知っている気分になってきてしまいます。また、インターネットによって情報は簡単に検索することだけ手に入るようになっています。それを自分が知っていることと勘違いしてしまうこともありえます。そうした慢心を捨て、自分が見えていない世界がある、知らない知識がある、道の選択肢があることを常に意識することが必要になるわけです。

また、選択肢を作る、選択肢を知るだけでは不十分です。これは選択肢が並べてあるだけの状態。この中から、本当に必要なものを選ばなければいけません。組織や社会であればそれはリコメンド、推薦といった形になるでしょう。相手の立場に立って、何が必要かを考えて、選択肢を提示するということになります。しかしそれは、選択肢を提示することの延長でしかありません。結局のところ、選ぶためには個人の意思が必要なのです。ではその意思決定はどこから得られるのでしょうか。それはやはり、個人の学びです。ただ、この場合一口に学びといっても、ものごとを知っている、というだけではありません。自分の想いが何であるのかを知り、その想いを叶えることができる選択肢が何であるかを見極める力が必要なのです。教科書で学ぶ形式知(読めばわかる知識、文章化された知識)だけでなく、人との関係性や経験から学ぶ暗黙知(言葉にできない知識、感覚的なもの)も必要なのです。

つまり、豊かさを得るために必要なこととは、形式知と暗黙知双方の学びです。個々人はその学びにより、選択肢の存在を知り、どの選択肢を選ぶべきかを見極められるようになっていきます。組織や社会はその支援を行うことで、社会全体の豊かさを実現できるわけです。


  まとめ:価値あるビジネスは。選択肢をつくり、学びを提供し、豊かさに貢献するビジネス
ビジネスは社会に価値を提供しなければいけません。社会に価値提供できないビジネスは必ず淘汰されます。言い換えれば、ビジネスは豊かさに貢献しなければいけないのです。スマートシティの議論の中で”豊かさ”というキーワードが出てくるのであれば、スマートシティに関わるビジネスはこの“豊かさ”を実現すること、つまり社会の選択肢を増やしていくことにテーマをおく必要があるわけです。そして機能的なものを提供するだけでなく、人々がその選択肢を知り、選べるように、”学び”の分野とも連動していくということが必要になるわけです。