2012年7月17日火曜日

石巻・気仙沼・陸前高田の今③ ⇒ 一時的な“カネ”ではなく、持続的な“経済システム”が必要


石巻・気仙沼・陸前高田を回って感じたこと、その一つに“ボランティアだけでは復興できない”というものがありました。人の善意は必要、それが大きな支えになり、力になることは間違いありません。しかし、復興へと続けていくためにはボランティアだけでは足りないのです。


  活躍したボランティア ⇒ それだけには頼れない
東日本大震災発生後、多くのボランティアが被災地に入り、復旧を支援してきました。瓦礫の除去をしたり、炊き出しをしたり、物資を届けたり。被災したまちを移動していると、瓦礫を片付けた建物に「ボランティアの皆さん、ありがとうございました」といったメッセージが貼り付けられていることからも、その活躍は十分にうかがえます。また、ある程度復旧が進でくるとボランティアは被災地に“お金を落とす”存在にもなっていきました。ボランティアの方たちは活動をするために宿泊施設が必要であったり、食事が必要であったりするわけです。

しかしながら、時間がたつにつれてボランティアの数は減っています。震災直後は平日でも全国から集まっていたボランティアも、週末にやってくるだけ。この背景には、復旧・復興が進むにつれて必要とされるボランティアの量と種類が変わっていたこと、そして時間がたったことでニュース性・話題性が薄れていってしまっていることなどがあげられます。必然的にボランティアが被災地に落としていくお金も減っていっているわけです。


  被災地の人口流出と高齢化 ⇒ 社会基盤の底上げを
震災以降、被災地の人口は減少しています。震災以降、被災地域から転出していく方が多いためです。例えば石巻市は
 ・宮城県内他自治体への転出 : 5418人 (転入 2486人)
 ・宮城県外への転出 : 8996人 (転入 3586人)
  ※いずれも2011年中 出展:石巻統計書
と転出が転入を大きく上回っています。2010年には16万人いた人口も、2012年6月には15万人にまで減少しているのです。

また、高齢化も進んでいます。団塊の世代を中心とした典型的な釣鐘構造。石巻市の場合、65歳以上人口は全体の26%となっています。これが単純計算でも5年後には35%となり
、3人に一人は高齢者、というまちになってしまうのです。

人口が減って、高齢化が進むということは、社会的な基盤が弱くなることを意味します。なぜなら、
 ・社会を支える労働力が減少
 ・高齢化が進むことで社会保障負担が増加
 ・個人所得が減少することで経済活動が停滞・衰退
というシナリオが起き得るからです。もちろん、このシナリオは被災地に限ったことではなく、過疎地域全般に言えることです。だからこそ、地域活性が叫ばれたりしているわけですが、被災地はその傾向がより顕著となっているのです。


  投入される補助金 ⇒ 一過性の“カネ”の効果は限定的
ボランティアに頼り続けることはできない、片や人口流出・高齢化が進んでいる。このままいけば、被災地の社会基盤は弱くなってしまう。この状況を打開することが今後の復興に向けては必要になってきます。ではどうすればよいのでしょうか。

一つの案としては、補助金など“カネ”を投入するということが考えられます。“カネ”を投入することで公共事業などを立上げて企業を誘致し、雇用を作っていくことで、人を集めて経済活動を活発化するというもの。これまでも経済活性策の典型としてとられてきた施策です。短期的には効果があるかもしれません。しかし、社会基盤は持続することに意味があります。一瞬だけ盛り上がって、結局衰退したのでは何の意味もありません。単純な“カネ”の投入は、“カネの切れ目が縁の切れ目”になってしまう恐れがあり、一過性の施策になりやすいのです。しかも投入する“カネ”は公的資金から拠出されるため、結局は地域住民をはじめ国民の負担を増やすことにもつながりかねないのです。加えて公的資金だけでは全てをまかなえるわけでもありません。行き届いていない部分も少なくないのです。無論、“カネ”が要らない、というわけではありません。要は使い方、投入の仕方の問題なのです。


  求められるのは経済システム ⇒ 補助金は最初のエンジンに
では、どうするべきか。必要なことは“経済システム”を作り出すことにあります。言い換えれば、“カネの流れ”です。投入した”カネ”をただ浪費するのではなく、循環させてさらに増やしていくシステムを作ることが必要なのです。もちろん、それは簡単なことではありません。そこで求められることが、
 ・ビジネスモデル
 ・地域雇用
 ・スモールスタート
です。まず、持続可能なビジネスモデルを作ります。これはビジネスの主体者が利益をあげて、ビジネスを続けていくことができる仕組みを作り上げることです。そしてそのビジネスモデルに地域の人たちに参加してもらう=地域雇用を作るわけです。雇用を作れば、給料が入り、それは消費につながり、経済を底上げしていきます。ただし、これを大規模な仕組みで行おうとすれば失敗のリスクが高まります。そこでスモールスタート。色々なビジネスモデルを少人数でトライしていく、ということが必要になるのです。スモールスタートであれば、投資リスクも下げられますし、数多くのビジネスモデルにトライできます。トライする数が増えれば、その分成功事例が出てくる可能性もあがっていきます。そして成功事例が出てきたら、今度はそのビジネスモデルを成長させていくことで、更なる経済活動に結びつき、大きな“経済システム”に発展していくことが期待できます。

これは復興支援を考える企業にとってもメリットがあります。CSRを掲げて、ボランティア的に復興支援を行うだけでは、企業の収益には直結しません。しかしながら、ビジネスモデルを作り、それを展開することができれば、復興支援にもなりつつ自社の収益性を高めることにもつなげることができるからです。

このとき、いくらスモールスタートだといっても、初期投資が必要になります。ここで補助金などの“カネ”を使うのです。事業を始める際にはどうしても“初期投資費用をどうやって得るか”ということが課題になります。それは企業で新しい事業を立ち上げる際にも、個人企業でも同じであり、高いハードルの一つです。このハードルを補助金という形で取り除き、ビジネスモデルを展開して経済システムを作り上げ、結果的に雇用や消費という形で還元する。この流れが今後の復興に求められるものなのではないでしょうか。